起点の新宿から15.8kmの位置にあり、かつては遊園地の最寄駅でもあった向ヶ丘遊園。
遊園地が閉園してしまった現在も駅名はそのままで、大規模な改良工事が行われていないこともあり、どこかノスタルジックな雰囲気が漂う駅です。

周辺の主要駅は大規模な改良工事を終えている中、なぜ向ヶ丘遊園は昔ながらの姿を残しているのでしょうか。

私鉄の駅らしさが残る向ヶ丘遊園

複々線区間を抜けて最初の駅となる向ヶ丘遊園は、待避線を備えた急行停車駅です。
以前は特急の一部が停車していましたが、快速急行は登場から現在まで通過しており、特急についても停車する列車がなくなってしまいました。

小田急の複々線は代々木上原から登戸までとなっていますが、登戸から向ヶ丘遊園までは上りのみが緩行線と急行線に分かれており、3本の線路が並ぶ状態となっています。
朝のラッシュ時に少しでも効果を高めるべく、上り線のみ複々線区間が若干長いといえば分かりやすいかもしれません。
上り線の改良時には線形の変更が行われており、下りホームは新宿方でカーブを描く不自然な状態となっています。

そんな向ヶ丘遊園は、周辺の主要駅のほとんどが大規模な改良工事を終えている中、現在も小規模な改良を繰り返しているのみで、大きく手を加えられてはいません。
2019年には南口の駅舎を改良し、駅全体も「ナチュラル・レトロモダン」をコンセプトとしてリニューアルされていますが、基本的な構造はそのままとなっています。

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主要駅としては珍しく、現在も橋上駅舎化は行われておらず、ホームには跨線橋を使って行き来する必要があります。
しかし、そのような構造がどこか懐かしさを感じる部分でもあり、向ヶ丘遊園の魅力ともなっています。

なぜ大規模な改良工事が行われないのか

周辺の主要駅と比較すると、利用者数は少なめの向ヶ丘遊園ですが、なぜ大規模な改良工事が行われないのでしょうか。
明確な理由は正直なところ分からないのですが、向ヶ丘遊園という駅が抱えている様々な事情が、大きな工事をできないことに繋がっていると考えられます。

まず、駅の周辺では登戸土地区画整理事業が行われています。
この事業は1988年にスタートしたもので、登戸から向ヶ丘遊園の周辺で工事が行われており、最近は景色が大きく変化しつつあります。

区画整理によって上り線に隣接する道路を若干移設し、小田急を複々線化する用地を確保するようで、下りホームが変なカーブを描いている状態となっているのは、限られた土地で暫定的に上りの線増を行った影響です。
最終的に上り線側に線路を動かす際、元の直線に戻すことを想定しているのだと思いますが、ホームをそれなりにしっかりと構築している点は気になります。
新宿方の踏切は将来的に廃止されるようですが、どのようにして歩行者の導線を確保するのかも興味深いところです。

登戸から向ヶ丘遊園までだけではなく、新百合ヶ丘までの複々線化も可能性としては残っているようですから、方針が定まらない中では大きく動くことができないというのが実態なのかもしれません。
複々線化をしないということが決まれば、現状のままで抜本的な改良ができるのでしょうが、将来的にどうするのかが決まらないことには、大規模な改良工事には踏み出しにくいといえます。

しかし、老朽化した状態をそのままとするわけにもいかないため、小さな修繕を繰り返しているのでしょう。
「ナチュラル・レトロモダン」というコンセプトは、そのような状況を逆手に取ったともいえそうです。
登戸土地区画整理事業が終わる頃に何らかの動きがあるのか、それとも今のままの状態が続くのか、これからの向ヶ丘遊園はどうなっていくのでしょうか。

おわりに

主要駅としては珍しく、昔ながらの雰囲気を現在も残している向ヶ丘遊園。
大規模な改良工事がやりにくい状況なのだと思いますが、周辺の整備が終わる頃にどうなっていくのか、駅舎が軽めのリニューアルで済まされている現状からも気になりますね。