新宿から片瀬江ノ島までを結び、都心部と海を繋いでいる小田急ロマンスカーのえのしま号。
近年は比較的目立たない存在となっており、30000形(EXE・EXEα)や60000形(MSE)の4両による運転が中心となっています。

かつては前面展望席がある車両で運転されていたえのしま号ですが、現代においてはどのような価値を提供できる可能性がある列車なのかを、今回は考えてみたいと思います。

昔のえのしま号が提供していた価値

1時間に3本もの快速急行が走り、編成も長くなった現在からは想像ができませんが、昔の江ノ島線といえば、編成が短い、急行の本数が少ないというのが当たり前の時代がありました。
10両編成が走っていないばかりか、4両の列車が沢山走っており、それが急行に充当されていたような時期もありました。

庶民の速達列車である急行は30分に1本しか走っておらず、江ノ島線内を各駅停車で乗り通さなければいけないタイミングも多々ありますが、その列車が4両の場合には混雑も酷く、快適とは言い難い状況でした。
逆の見方をすると、最上位の種別となるロマンスカーの存在価値が今よりも高く、乗車することで得られるメリットも多い時代だったといえます。

当時のロマンスカーは、急行と比較して停車駅がかなり少なく、混雑する他の列車とは違い着席も保証されました。
ほとんどの車両には前面展望席が設けられており、非日常感を味わうことも可能でした。

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他の列車より速くて座れる列車、そこに特別な非日常感もある、それが昔のえのしま号の価値でした。
しかし、快速急行が沢山走る現在はその価値が薄れてしまい、いずれの条件も当てはまりにくくなってしまっています。

えのしま号の新たな価値を考える

快速急行の裏で、えのしま号はたまに走ってくる列車のようなイメージとなってしまいましたが、何か新しい価値を生むことはできないのでしょうか。
昔に比べるとインパクトは弱く、少々もったいないように思います。

日常の利用という観点では、やはり快速急行では得られないメリットが必要ですが、クロスシートだけではやはり弱そうです。
始発駅から乗れば快速急行も座れるため、途中駅以外では着席保証のメリットも少なくなってしまいます。

ビジネスでの利用を考えた場合、パソコンが置ける、コンセントがあるといった面を満たしている車両は既にありますが、全てではないのは気になります。
さらに踏み込むとしたら、電話がしやすい、リモートでの会議ができるといった要素でしょうか。
追加料金を払えば使用できる会議室等があれば、意外と面白いのかもと思いました。

観光利用の面ではどうでしょうか。
江ノ島までロマンスカーで遊びに行くという需要は昔ほどないかもしれませんが、だからこそ積極的な何かが必要になりそうです。

例えば、新江ノ島水族館とコラボして、4両の車両にだけ特別なラッピングをするといった取り組みは面白いと思います。
子供が乗りたがる車両になれば、観光利用での新たな需要が掘り起こせるかもしれません。
えのしま号以外の列車にも使用する車両となるため、やりすぎると困る面も多いでしょうが、ある程度であればやってみる価値はあるのではないでしょうか。

江ノ島や鎌倉、江ノ電と組んだ割引の提供も良さそうですが、この時代だと普通すぎてあまりインパクトはないかもしれません。
乗ること自体に価値を生み出せるか、利用客が減るこれからの時代だからこそ、大量輸送に頼りきらない取り組みが必要になるのではないか、考えていてそんなことを思いました。

おわりに

ここ数年で移動をするということの価値は変化し、鉄道にはかつてないほどの危機が到来しています。
乗ること自体にどのような価値を提供できるか、ピンチはチャンスであり、効率的な大量輸送を追求するだけではない、新しい取り組みが必要になっていくのかもしれませんね。