御殿場線に乗り入れを行うあさぎり号用の車両として、1990年から製造された小田急の20000形(RSE)。
それまでの車両とは異なるブルー系のパステルカラーを採用し、当時としてはかなり異質なロマンスカーでした。

RSEを異質な存在とする要素には、当時のロマンスカーでは当たり前の前面展望席を採用しなかったということもあげられますが、それはなぜだったのでしょうか。

一般的な仕様の車両となった20000形

小田急から御殿場線への乗り入れは、1955年に気動車のキハ5000形とキハ5100形でスタートし、電化後の1968年からは3000形(SE)がその役目を担ってきました。
時代が平成に変わってもSEの活躍は続いていましたが、登場から30年以上が経過したSEの老朽化は隠せず、置き換え用としてRSEが製造されることとなりました。

RSEの設計が進められていた頃の日本はバブル期であり、車両の仕様は時代を象徴する豪華なものとなっています。
10000形(HiSE)に続いてハイデッカーが採用されたほか、ダブルデッカー車の組み込み、追加料金が必要な特別席の設置といった、RSEが最初で最後となっている設備もあります。

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その一方で、ロマンスカーならではといえるような、伝統的な特殊仕様は採用されませんでした。
SE以来の伝統だった連接車とはされず、ロマンスカーの象徴である前面展望席もなくなり、車両の仕様自体は一般的なものとされました。

細かい部分では小田急らしさが随所にありますが、利用者の視点で考えれば、前面展望席がなく青系のカラーリングであるロマンスカーは異質な存在でした。

RSEの設計に制限を加えた相互直通運転

あさぎり号として活躍したRSEには、兄弟のような、姉妹のような、相方、仲間とも呼べる371系という車両が存在します。
371系はJR東海が所有した車両で、こちらもあさぎり号として活躍していました。

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小田急と御殿場線の直通運転は、1955年の開始以来小田急からの片乗り入れで行われてきましたが、1991年からはこれを相互直通運転として、両社の車両が乗り入れる形態へと発展します。
こうして誕生したのがRSEと371系であり、それぞれの特徴を備えた個性的な車両が用意されました。

それぞれの会社の独自性は持たせつつも、二社の車両で運行するためには、編成の両数や座席の配置とといった基本的な部分を共通化する必要がありました。
ボギー車とされたのはこれが大きな理由であり、JR東海が連接車を採用するわけにもいかず、RSEは一般的なボギー車となったものです。

前面展望席を採用しなかったことも共通化が理由といえますが、相互直通運転化により松田駅で乗務員が交代するようになったことも、不採用に関係していると考えられます。
運転席が二階にある場合、乗務員は梯子を使って昇り降りをする必要があり、交代時に時間と手間がかかることから、前面展望席の採用は避けたのでしょう。

しかし、どちらの車両も先頭車での眺めには最大限の配慮が図られており、大きな前面窓は展望席に負けないほどの魅力を持っていました。
客席の前に運転席はあるものの、運転風景を眺められるのは違った魅力でもあり、前面展望席とは異なる良さがありました。
ハイデッカーのRSEは運転席よりも客席が高く、371系以上に前面展望は良好でしたが、このような構造としたことに小田急の意地を感じたものです。

おわりに

前面展望席はないものの、先頭車での眺めは素晴らしかったRSE。
RSEと371系は現在も仲良く富士急行線で活躍しているため、乗り比べてみるのも面白いかもしれませんね。