営団地下鉄(現在の東京メトロ)千代田線への直通用として、1972年に登場した小田急9000形。
現在はJR東日本の路線となっている、当時の国鉄常磐緩行線には入線しませんでしたが、地下鉄線内の綾瀬まで直通運転を行っていました。

小田急で初めて地下鉄に乗り入れることとなった9000形には、それまでの車両とは異なる部分が多くあります。
従来の車両より少しだけ狭くなった車体幅や、電動車比率が高いことが特徴として目立ちますが、地味な部分として特殊な制動装置の採用があります。

2200系列、2400形、5000形は発電制動を行うHSC-D、2600形は回生制動を行うHSC-Rを採用しましたが、9000形ではHSC-DRという特殊な制動装置が採用されています。
その名称が示すとおり、発電制動と回生制動の両方が使える制動装置です。

9000形は制動初速によって制動方式が切り替えられる仕組みとなっており、75km/h以上の場合には安定した制動力が得られる発電制動を、75km/h未満の場合には発熱を抑制するために回生制動が作用します。
小田急線内と地下鉄線内の両方で運用するために、このような仕組みが採用されましたが、その複雑さが社内からは嫌われ、直通運用からの撤退後は厄介者扱いされる原因となってしまいました。

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HSC-DRというのはどれぐらい珍しいのか調べてみたところ、国内での採用例はやはり少ないようで、東武200系等の一部で見られる程度のようです。
しかし、回生失効時や非常制動の際に発電制動が作用するというものであり、制動初速で切り替わるというものがかなり独特だったことが分かります。

こうして現場から嫌われることとなった9000形は、下降窓の採用によって車体の老朽化が早かったこともあり、5000形よりも先に廃車が開始され、2006年に惜しまれつつ引退しました。