現役のロマンスカーの中では、唯一の連接車となってしまった小田急のVSE。
ロマンスカーブランドの復権を目的としていたVSEには、前面展望席や連接構造といった伝統の復活に加え、車体傾斜制御等の新しい技術も採用されました。

小田急ではVSEでしか見られないものがいくつかありますが、その中にダブルパンタグラフがあります。
なぜVSEがダブルパンタグラフを採用したのか、今回は考えてみたいと思います。

3号車と8号車にまとめて搭載されたパンタグラフ

VSEのパンタグラフは、3号車(デハ50700)と8号車(デハ50200)の2両にのみ搭載されています。
小田急では珍しいダブルパンタグラフとなっており、編成内では合計で4基となっていることが特徴です。

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この2両にパンタグラフを集中させていることには理由があります。

50000形にはVSEの愛称が与えられていますが、このVは「vault」の頭文字を取ったもので、アーチ形の天井といった意味があります。
この愛称が示すとおり、VSEの車内はアーチ形の高い天井で、その高さは2,550mmもあり、天井裏には空調装置のダクトとスピーカーしかありません。

これがパンタグラフを集中させている理由です。
3号車と8号車だけは高い天井となっておらず、ここにパンタグラフがまとめられています。
カフェのカウンターやトイレといった車内のサービス設備もここに集約され、客席は展望席を除いて全て高い天井とすることに成功しました。

ダブルパンタグラフとなった理由

パンタグラフを搭載する車両がまとめられた理由は分かりましたが、もう一つの疑問はダブルパンタグラフです。
小田急では基本的に1両に1基のパンタグラフを搭載していますが、VSEは例外となっています。
この理由は定かではありませんが、車体傾斜制御と前後シンメトリーが関係していると考えています。

VSEでは、過去に何度か試験をしていた車体傾斜制御が採用されました。
車体傾斜制御の採用に伴い、パンタグラフは摺り板の長さが750mmとなっており、通常より長いものが搭載されています。
技術的なことなので素人が断定はできませんが、車体傾斜制御による離線を防止する目的だと考えられます。

そして、もう一つの理由として考えている前後シンメトリーですが、VSEをデザインした岡部憲明氏は、編成の両数を10両にするぐらいのこだわりを持っていました。

小田急は編成中のパンタグラフが多いという傾向がありますが、近年の車両では昔より少なくなっています。
VSEでは編成中で3基ぐらいあれば良さそうですが、前後シンメトリーを実現しようとすると、パンタグラフの数も偶数とする必要があります。
2基だと離線が心配であり、3基だと前後シンメトリーにならない、それがダブルパンタグラフの4基という結果に繋がったのではないでしょうか。

おわりに

様々なこだわりが詰め込まれているVSEは、最もデザイン面での妥協がされていないロマンスカーかもしれません。
走り去るVSEを眺めつつ、前後シンメトリーの編成美を感じてみてはいかがでしょうか。