ロマンスカーとしては初めて、分割併合を行うことを前提とした設計とし、1996年に登場した30000形。
3000形以降のロマンスカーとしては、唯一ブルーリボン賞を受賞しておらず、車両の愛称にもSEが入っていない異質な存在です。

従来の設計方針から大きく転換したことで、鉄道ファンを中心にネガティブな印象を持たれたことも少なくありませんでした。
しかし、その方向性は間違っていなかったのかもしれません。

ロマンスカーのその後を変えることとなった30000形

老朽化が進んだ3100形(NSE)を置き換えるため、1996年に登場したのが30000形(EXE)でした。
それまでのロマンスカーとは何もかもが異なっており、良くも悪くも強烈なインパクトを利用者に与えたのです。

ロマンスカーといえば前面展望席や連接車という前提から外れ、外部の塗装もそれまでとは全く異なるシンプルなものとされました。
編成は4両と6両が用意され、併結して10両とすることで輸送力の最大化が図られています。
車両の愛称も、3000形(SE)から続いていた伝統から脱却し、SEが含まれないEXEとされました。

外見を中心に様々な意見があった30000形ですが、登場時から内装に関しては評価が高く、落ち着いたデザインやゆったりとした椅子が利用者から愛されています。
実用的な仕様にまとめられたといえる30000形ですが、登場当初は本来のコンセプトとは異なる観光向けの列車にも多く充当され、イメージリーダーまで担ってしまったことが災いし、ロマンスカーのブランドイメージを低下させてしまいました。



それまでとは何もかもが違う車両だったからこそ、その反動は大きかったのかもしれません。
しかし、30000形での方針転換は、間違ってはいませんでした。

確立されたロマンスカーの役割分担

賛否両論があり、得票数としては1位になりながらも、30000形はブルーリボン賞の受賞を逃してしまいました。
名車である3100形(NSE)を引退に追い込んだというのも、印象が良くなかったのかもしれません。

しかし、30000形で日常利用を重視する戦略に転換したことは、現在のロマンスカーの発展へと確実に繋がっています。
イメージリーダーを10000形(HiSE)に戻し、その後50000形(VSE)が登場したことで、30000形は本来の役割に集中することができるようになったからです。

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元々は新宿から観光地を結ぶ役割を担っていたロマンスカーですが、現在は沿線住民の身近な足としても親しまれています。
少し離れた駅への買い物や通勤時等、少しだけの追加料金を払うことで、気軽に乗れるようになりました。
東京メトロ千代田線との直通運転も行われるようになり、都心の中心部まで行くことも可能となっています。

30000形での失敗は、観光利用を中心とした車両と、日常利用を中心とする車両を分けることで解決されました。
現在は前者を50000形と70000形が、後者を30000形と60000形が担っています。

現在は30000形と60000形がロマンスカーの大半を占めるようになっており、日常利用へのシフトが進んだことを物語っています。
一方で、ロマンスカーのイメージリーダーとなる車両も定期的に導入することで、ブランドイメージを維持しつつ、身近に利用できる特急列車となりました。
30000形での方針転換自体は、間違っていなかったといえるのでしょう。

おわりに

時間が経過し、以前よりも評価されるようになった30000形。
外見にもう少し配慮があれば、登場当初の評価も違っていたのかもしれませんね。