2022年3月11日をもって定期運行を終了し、2023年の秋頃に引退することが発表された小田急のVSE。
約18年という短い活躍期間での引退は、多くの鉄道ファンに衝撃を与えました。

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一方で、活躍期間が短く、車両自体が比較的新しいことから、他社への譲渡があるのかについても注目されています。
VSEが他社に譲渡され、再起する可能性はあるのでしょうか。

小田急のロマンスカーが譲渡された事例

事例としてはそこまで多くないものの、小田急で廃車となったロマンスカーが譲渡され、他社で再起したケースがあります。
連接車が譲渡された事例もあるため、ハードルは高いものの、連接車だから譲渡ができないということはないといえるでしょう。

ロマンスカーとして最初の譲渡事例は、国鉄の御殿場線に乗り入れていたキハ5000形とキハ5100形です。
廃車後は関東鉄道に譲渡され、扉を増設して使用されました。

続いて譲渡されたのは、2200系列の一員として活躍した2300形でした。
ロマンスカーとして活躍した期間は短く、格下げされて通勤型車両となっていましたが、廃車後は富士急行に譲渡され、他の2200系列と一緒に活躍しました。

譲渡先でも優等列車として活躍したのは、2300形と同じ時期に譲渡された3000形(SE)でした。
譲渡先は大井川鐵道で、急行列車として活躍をしますが、集客ができなかったことから早々に走らなくなってしまいました。

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その後はしばらく譲渡される事例がありませんでしたが、ハイデッカーであることが問題となり、早期に引退することとなった2形式が譲渡され、現在も活躍しています。
長野電鉄に譲渡された10000形(HiSE)と、富士急行に譲渡された20000形(RSE)で、現在も元気に走っています。
HiSEはVSEと同じ連接車であり、当然メンテナンスには苦労があると思われますが、VSEが譲渡される可能性を考えるにあたっては、明るい材料になるといえそうです。

VSEが譲渡される可能性はあるのか

過去の事例を振り返ってみて、連接車の譲渡についても希望が持てることが分かりました。
しかし、結論から書いてしまうと、VSEが譲渡される可能性は限りなく低いと考えられます。

VSEの譲渡を難しくする点としては、以下があげられます。

・連接車であること
・編成短縮が困難
・車体傾斜制御等の特殊装備が多い
・補修が困難な車体構造

連接車であることは、ロマンスカーの譲渡を難しくする原因として、昔から存在していました。
加えて、VSEでは車体傾斜制御、台車操舵制御のような特殊な装備が多く、それ自体が小田急での引退を早めた原因でもあります。
大手私鉄でさえメンテナンスに困ることとなった車両を、地方私鉄等が導入することは、とてもハードルが高いといえます。

小田急からは、車体の補修が困難であるという理由も発表されています。
実際にどれぐらい困難であるのかは別としても、発表内容に含まれていることから、それを補修して他社が導入するのは簡単ではなさそうです。

そして、VSEは編成を短縮することが困難であるという事情もあります。
パンタグラフが搭載されている車両が編成で2両しかなく、サービス設備がその車両に集約されています。
車体の構造上、他の車両にパンタグラフを搭載することは難しいでしょうから、編成を短縮する際にはこの車両を含める必要が生じてしまいます。
最短でも4両編成になることが避けられず、客席も両数に対して多いとはいえません。

そして、VSEのデザインを担当した岡部憲明氏は、前後シンメトリーにこだわって編成美を重視しました。
このような点からも、それとは逆行する編成短縮の改造を行って譲渡することは、今後の関係性を考えればなかなか厳しいものがあるといえそうです。

HiSEが活躍する長野電鉄に置き換え用として譲渡されるのではないかという意見もありますが、HiSEが活躍するからこそ、VSEを導入する可能性は最も低いようにも思います。
なぜならば、メンテナンスのしやすさという点においては、HiSEのほうが地方私鉄で扱う分には圧倒的に優れており、VSEに置き換えるメリットがほとんどありません。
このような点からも、VSEは小田急でその生涯を終え、一部がロマンスカーミュージアムに展示されるという展開になる可能性が、最も高いように思いました。

おわりに

現実的な問題は別にすれば、私自身も他社で活躍するVSEを見てみたいという気持ちはあります。
しかし、小田急でさえ維持することが困難となってしまったこの車両を、地方私鉄等が導入するハードルは、とてつもなく高いといえそうです。