箱根への観光輸送に加え、日常の利用でも大切な存在となっている小田急のロマンスカー。
新型コロナウイルス感染症の影響によって利用動向が変化し、2022年3月12日のダイヤ変更では箱根湯本への乗り入れ本数が減ることとなりました。

ダイヤ変更に合わせてVSEが定期運行を終了することも衝撃的ですが、このような方向性は60000形(MSE)が大量に増備された段階で示されていたのかもしれません。

日常利用を重視した車両の増加

30000形(EXE)を登場させ、停車駅の追加、あしがら号とさがみ号をサポート号に統合すること等で、小田急は日常利用への対応を進めていきました。
3100形(NSE)を30000形に置き換えたことで、鉄道ファンを中心に賛否両論はありましたが、現在の利用状況からすれば、当時の決断は間違っていなかったといえるでしょう。

一方で、30000形を大量導入したことによるブランドイメージの低下があり、後に50000形(VSE)を導入することになったのは記憶に新しいところです。



ここで気を付けなければいけないのは、50000形の登場は観光利用を重視する方向に戻ったということではなく、イメージリーダーの置き換えであったという点です。
バリアフリー化への対応が困難な10000形(HiSE)を置き換え、観光利用をターゲットにした新たなイメージリーダーとして登場したのが50000形でした。

それまでにはない斬新な車両として登場した50000形は、ファンや利用者に衝撃を与え、ロマンスカーのイメージアップに貢献することとなりました。
しかし、2編成が登場して以降は増備されることがなく、3年後には60000形(MSE)が登場することとなるのです。

MSEの大量増備で決定的となった日常利用重視の方向性

東京メトロの千代田線に乗り入れるロマンスカーとして登場した60000形は、4両と6両を併結して10両での運転が可能な形式ながら、10両で両端に位置する先頭部は流線形とされました。
地下鉄線内を走行することから、先頭部には貫通扉が設けられていますが、機能性を重視しつつもロマンスカーとしてのイメージが大切にされたことがうかがえます。

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当初は千代田線に乗り入れる列車を中心に使われますが、その後の増備で編成数が増加すると活躍の範囲が広がり、小田急線内のみを走行する列車でも見る機会が多くなり、JR東海の御殿場線にも乗り入れるようになります。
愛称のとおり、まさにマルチな活躍をする車両となり、60000形は結果的に30000形に次ぐ勢力まで増備されることとなるのです。

登場した段階で、60000形がここまで増備される予定であったのかは分かりませんが、この大量増備によって、日常利用を重視した車両を増やす方向性が暗に示されていました。
60000形は観光輸送にも使える車両ではありますが、やはり日常利用に向いている車両であることは否めません。
7000形(LSE)の一部、10000形の残りの編成、20000形(RSE)は60000形によって淘汰され、展望車や観光利用を重視した車両は静かに数を減らしていきました。

この時点でロマンスカーのほとんどは30000形と60000形となっており、日常利用を主体とする車両の比率が高くなっています。
しかし、これは小田急が観光輸送を軽視しているということではなく、利用実態に合わせた車両の比率に変更したという要素が強いと考えており、車両を使い分ける方向性が明確になったともいえそうです。

日常利用が増加した現実に合わせ、車両の使い分けが鮮明になったということが、60000形の大量増備からは見えてきます。
現状は観光需要が落ち込んでいるため、VSEが定期運行を離脱するのに合わせた車両の増備はないようですが、需要が回復する時期に合わせて何らかの動きが出てくるのかもしれませんね。

おわりに

時代の変化によって、ロマンスカーの役割も徐々に変化してきました。
30000形の登場、その後の60000形の大量増備によって、ロマンスカーは増加した日常利用へと対応してきたといえそうです。