小田急から東京メトロの千代田線に乗り入れを行い、地下鉄線内も特急列車として運転している60000形(MSE)。
多彩な運行が可能な特急列車という意味を込めて、「Multi Super Express」という愛称が設定されています。

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2008年に営業運転を開始して以降、愛称のとおりマルチな活躍をするMSEですが、登場から数年間だけは有楽町線にも乗り入れを行っていました。

有楽町線に乗り入れをしたベイリゾート号

小田急と東京メトロは、代々木上原において小田原線と千代田線の相互直通運転を行っています。
相互直通運転は1978年3月31日にスタートし、小田急からは9000形、東京メトロ(当時は営団地下鉄)からは6000系が相手方に乗り入れるようになりました。

その乗り入れに大きな変化があったのは、2008年3月15日から始まったロマンスカーの千代田線内への乗り入れで、メトロはこね号やメトロさがみ号を基本として、通勤客をターゲットにしたメトロホームウェイ号も設定されました。
小田急のロマンスカーが地下鉄線内を走行するという新しい展開で、乗り入れは新たなステージに突入したといえます。

そして、乗り入れが開始された当初には、運転される日が限定されてはいるものの、ベイリゾート号という特急列車の設定もありました。
この列車の特徴は、千代田線を介して有楽町線に乗り入れを行うことで、小田急のMSEが新木場まで顔を出していました。

ベイリゾート号は、千葉県にある東京ディズニーリゾートの利用者をターゲットにした列車で、朝の早い時間に小田急の本厚木を出発して新木場へ、逆に夜は新木場を出発して小田急の本厚木まで戻るというものでした。
最大の特徴は、千代田線の霞ケ関から有楽町線の桜田門まで連絡線を走行することで、ベイリゾート号ならではの体験が可能でした。

このように趣味的にもかなり面白い列車でしたが、有楽町線にホームドアを設置する関係で2011年10月に運転を休止、2012年3月17日のダイヤ改正で正式に設定がなくなりました。
約3年半は運転されたことになりますが、運転日が限られていたこともあって既に記憶からは忘れ去られつつあり、幻の列車に近い存在となっています。

なぜベイリゾート号はなくなってしまったのか

ベイリゾート号が運転されなくなった直接的な理由はホームドアの設置ですが、この列車には様々な課題があったことも事実で、総合的な判断もあったのだと思われます。
発想としては意欲的な列車でしたが、全体としては課題点が多く、静かにフェードアウトしてしまった印象です。

まず、小田急線内から乗り換えをせずに、東京のベイエリアまで行けることは魅力的でしたが、新木場までというのが若干中途半端ではありました。
東京ディズニーリゾートに向かう場合は、新木場から舞浜までJR東日本の京葉線に乗らなくてはならず、たった2駅とはいえ少々面倒には感じます。

もう一つの要素としては、のんびり走るという点もありました。
千代田線や有楽町線内では追い抜きができないほか、途中駅で運転停車を行って折り返す必要もあり、どうしても所要時間が長くなってしまうのです。
運転される時間帯も若干中途半端だったのか、利用者は伸び悩んでいた印象で、最終的には運転が中止されてしまいました。

とても面白い列車だったので復活を期待したくなりますが、毎回満席のような状況にならない限り難しいのかもしれません。
色々な工夫を行うことで、もう少し利用しやすい列車となれば違った未来も見えそうで、発想としてはかなり面白いだけに残念ではあります。

おわりに

新たな需要を生み出そうと、意欲的な列車だったベイリゾート号でしたが、定着せずに姿を消すこととなってしまいました。
連絡線を走行するという趣味的な面白さもあり、早々になくなってしまったのは残念でした。