駅の近くに豪徳寺という寺院があり、それがそのまま駅名となっている小田急の豪徳寺駅。
東急世田谷線との乗換駅でもあり、三軒茶屋や下高井戸にも繋がっている意外と便利な駅です。

20210710_01

しかし、小田急の下を走る世田谷線の駅は山下駅であり、豪徳寺駅ではありません。
両線はなぜ異なる駅名となっているのでしょうか。

駅の近くにある豪徳寺

駅名の由来となっている豪徳寺は、駅から歩いて10分ほどの場所にある寺院です。
周辺の地名も豪徳寺となっており、一丁目と二丁目があります。

豪徳寺は招き猫の発祥の地といわれており、雨宿りをしていた井伊直孝が門前にいた猫に手招きをされて寺に立ち寄ると、それによって落雷を避けることができたそうです。
井伊直孝は彦根藩主で、この件をきっかけに和尚と親しくなり、寺を支援することとなりました。

元々は弘徳院という貧しい寺でしたが、井伊直孝によって立派な寺へと改築され、戒名の久昌院殿豪徳天英大居士にちなんで、豪徳寺となりました。
猫の手招きが福を招いたことから、これが招き猫の由来となったのです。

そんな豪徳寺の近くに小田急の駅が設置されたのは、小田原線が開業した1927年4月1日のことでした。
東急世田谷線の山下駅は、これよりも少し前の1925年5月1日に設置され、小田急よりも少しだけ先輩の駅となっています。

なぜ駅名が異なっているのか

同じ場所にありながら、小田急の豪徳寺駅と世田谷線の山下駅は、駅名が異なっています。
これには、世田谷線のほうが先に開業したことが関係していますが、やや面倒なことが起こっていました。

先輩である世田谷線には、1925年の時点で、三軒茶屋方から上町、豪徳寺前、宮ノ坂、山下と駅が並んでいました。
つまり、世田谷線にも豪徳寺にちなんだ駅が存在していたことになりますが、ややこしいのは宮ノ坂駅が現在の宮の坂駅とは違う駅であるという点です。
世田谷線の豪徳寺前は豪徳寺のすぐ近くにあり、まさに最寄駅であったといえます。

1927年に小田原線が開業する際、小田急は駅名に豪徳寺を採用しました。
世田谷線とは駅名が少し異なるものの、この時点で厄介な状態が発生します。
小田急と世田谷線の乗換駅は豪徳寺駅と山下駅、豪徳寺の最寄駅は世田谷線の豪徳寺前駅、とても面倒なことになりました。

しかし、この付近の世田谷線の駅が近すぎたからでしょうか、1945年に豪徳寺前駅と宮ノ坂駅を統合して中間地点に新しい駅を設置、新たに宮ノ坂(現在の宮の坂)駅としました。
宮の坂駅は最も豪徳寺に近い駅ですが、このタイミングでここを豪徳寺に関係する駅名にしてしまうと、小田急の豪徳寺駅との関係で紛らわしいことになるため、意図的に避けたのでしょう。

さらに、山下駅を改称して豪徳寺駅で揃えようとした場合、今度は世田谷線内でおかしなことが起こってしまうため、それも今日に至るまで避けられているのだと思います。
本来は小田急が山下駅になるべきなのでしょうが、そうすると豪徳寺としては知名度に影響が出るでしょうから、これもまたメリットがありません。
結果として、少々面倒な状況ではあるものの、最適解として今の駅名となっているのでしょう。

おわりに

豪徳寺の招き猫は、滋賀県彦根市のキャラクターであるひこにゃんにも繋がっています。
両線の駅名はややこしい状態ですが、井伊直孝を招いた猫も、まさかこんなことになるとは思っていなかったことでしょう。