現代においては当たり前の存在となった、VVVFインバーター制御の鉄道車両。
在籍する全ての車両がVVVFインバーター制御車という鉄道会社も増加し、小田急もその中の一社となっています。

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小田急で本格的にVVVFインバーター制御を採用したのは1000形が最初ですが、どのようにして実用化が進められたのでしょうか。

VVVFインバーター制御車の開発

まだ8000形の増備が進められている頃、1985年6月30日に発行されたコミュニケート小田急において、VVVFインバーター制御車の開発に着手することが触れられています。
1000形が登場するのが1987年の終わり頃ですから、約2年半前のことでした。

文中では「インバータ電車」と表現されており、交流モーターで走ることにより、保守の低減や省エネルギー化が可能なことが強調されていました。
この頃には他社で実用化もされていましたが、小田急は電動機の大型化や機器の集約を図ることを目指して、開発を進めていると書かれています。

電動車の比率を下げ、保守がしやすい車両を造るという方向性は、この時点で決まっていたことになります。
8000形がどんどん製造される中、次世代車両の開発は並行して進められていきました。

2600形で行われた試験

コミュニケート小田急で記事になってから半年後、1986年1月に動きがありました。
2600形の2662FにVVVFインバーターが搭載され、現車試験が開始されたのです。

試験車となったのは編成中に組み込まれるサハ2762で、本来は付随車である車両に機器や電動機を搭載し、試験が進められることになりました。
編成全てがVVVFインバーター制御とされたわけではなく、元々の抵抗制御とVVVFインバーター制御が混在した状態での試験でした。
改造後に試験を行った後、2662Fはそのままの状態で営業運転にも投入され、これが小田急で乗客を乗せた最初のVVVFインバーター制御車ということになります。

機器が搭載されたサハ2762では、1000形と似たような走行音が奏でられ、元々の電動車と隣り合う部分では、抵抗制御車とのハーモニーも聞くことができました。
今では当たり前となったVVVFインバーター制御の走行音ですが、当時としてはかなり珍しい存在だったことでしょう。

試験は1987年11月まで行われ、翌月の12月には1000形の最初の編成が小田急に到着、竣功しています。
試験の終了後にサハ2762の機器は撤去され、2662Fは本来の2600形へと戻されました。

1000形は1988年3月22日から営業運転に投入され、本格的なVVVFインバーター制御車の時代がスタートしました。
登場当初は小田急側も慎重だったのか、比較的余裕のある使い方がされており、ラッシュ時や土曜急行が活躍の中心でした。
その後はバリエーションを増やしつつ増備が進められ、2000形、3000形の増備へと発展し、小田急は本格的なVVVFインバーター制御車の時代へと突入していくことになります。

おわりに

登場したばかりの1000形に乗車し、VVVFインバーター制御の音を聞いた際には、その独特な走行音に驚いたことをよく覚えています。
30年以上が経過した今日では、この音のほうが当たり前となっていることに、時の流れを感じずにはいられませんでした。