観光輸送を主体としてきた従来の車両とは異なり、日常での利用を考慮して設計された小田急の30000形(EXE)。
現在はEXEαへとリニューアルされた編成があるほか、発展型である60000形(MSE)も登場しました。

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ロマンスカーを利用する層の拡大を牽引したことは間違いない車両ですが、最近では利用動向の変化という課題も抱えつつあり、変化の時期が近付いているのかもしれません。

身近になった小田急ロマンスカー

一昔前のロマンスカーといえば、箱根等の観光地に向かう際に乗車する特別な列車でした。
年々気軽に乗れるようになってきてはいたものの、私が幼少の頃は停車駅も限られており、ちょっとしたおでかけで乗るようなことはなく、憧れの存在として見ていました。

しかし、ロマンスカーを日常利用する方は年々増加し、時代が平成に変わった頃でしょうか、徐々に立ち位置は変化を始めます。
そんな時期に登場したのがEXEであり、観光輸送を重視してきた従来の車両とは一線を画し、輸送力の最大化と日常利用を重視した設計となりました。

鉄道ファンを中心に批判的な意見は多かったものの、利用者にとってロマンスカーはそれまで以上に身近な存在となり、2002年には特急料金の値下げも行われています。
年々停車駅も増加し、現在は主要駅の多くに停車するようになり、モーニングウェイ号やホームウェイ号といった通勤輸送も当たり前となっています。

その一方で、箱根等への観光輸送といった面では課題が生じてしまい、後に50000形(VSE)の登場へと繋がりました。
近年は観光利用と日常利用で車両の特性を分ける傾向となっていましたが、70000形(GSE)ではハイブリッドな傾向が強くなり、観光輸送の要素は以前より薄くなっています。

ロマンスカーに乗車する楽しさをなくしてよいのか

VSEが定期運行を終了したことで、ロマンスカーのラインナップは一気に寂しくなってしまいました。
現在は臨時列車等での活躍がまだ見られるものの、予定では2023年の秋頃に引退することが予定されており、車両の体制はより一層日常利用を重視したものとなります。
EXEとEXEα、MSEは日常利用を重視した設計であり、観光利用を考慮しているGSEも昔の車両ほどの振り切りはありません。

箱根への観光輸送からスタートしたロマンスカーは、利用者にとって身近な存在にはなったものの、昔のような特別感はかなり薄くなってしまいました。
現在の車両にも魅力は沢山ありますが、通勤型車両よりも良い椅子に座れるという要素が強くなり、乗車する楽しさは減ってしまったように思います。

他社との比較に意味があるのかは別として、西武や近鉄では攻めた車両が次々に登場しており、乗車することの価値が強く打ち出されています。
東武も今後新型特急を登場させる予定であり、専用車両を運行する私鉄各社は力を入れている様子がうかがえます。

VSEが定期運行から外れたことで、ロマンスカーで前面展望席を備える車両はGSEのみとなってしまいました。
車内販売のサービスも終わり、乗車する楽しさという面での見劣りは否めないでしょう。

日常の利用が多いことに車両を合わせた結果、観光輸送の面で新たな需要を掘り起こしていくことが、このままではできなくなってしまうのではないか、とにかくそこが心配です。
凄い車両が走っている、乗ったら楽しそう、そのような価値が付加できなければ、以前と同じようなロマンスカーのブランド価値低下を招きかねません。

新型コロナウイルス感染症により、移動するということは以前よりも特別な意味を持つようになりました。
今後観光需要はさらに回復していくと思われますが、その時には移動することの付加価値がより一層重要になるように思います。
次世代のロマンスカーがどのような車両で登場するのか、小田急がどこを向いているのかはその時に分かるのかもしれませんね。

おわりに

平成という時代において、小田急のロマンスカーはどんどん身近な存在へと変化しました。
身近になる反面、どうしても特別感というものは薄くなってしまい、車両のラインナップがより一層その傾向を強くしたようにも思います。

移動することに対する考え方が変化する中、追加料金を払ってでも乗りたいか、通勤輸送以外ではこの要素が今まで以上に重要となりそうですから、日常利用と観光利用を併用するスタイルには限界があるのかもしれません。
長年ロマンスカーを見ている者の一人として、驚くほどわくわくする車両が登場することを、どうしても期待してしまいます。