最近は傾向が変わりつつありますが、小田急では過去20年ほどに渡り、老朽化した車両に対して徹底的なリニューアルを行ってきました。
手を入れる箇所が多くなることで、結果的に工期は長期化しており、1000形のリニューアルを開始するのが遅くなった面は否めません。

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新車のような車両が増えることは嬉しいものの、徹底的なリニューアルには一長一短があったことも事実であり、今回はそのあたりを少し考えてみたいと思います。

徹底的なリニューアルによって生じた課題

機能上の問題で早期に廃車せざるを得ない車両を除き、小田急では導入からある程度の年数が経過した段階で、車両に対して車体修理と呼ばれるリニューアルを行っています。
車体修理という言葉のとおり、当初は車体の腐食部分を修繕することが中心でしたが、徐々に内装等にも手を加える箇所が増加し、新車に近い水準に仕上げられるようになりました。

徹底的なリニューアルが行われた車両としては、8000形、1000形、30000形の3形式があげられますが、1000形は一部の車両が未更新のまま廃車となり、30000形についても同様のパターンとなりそうです。
現在リニューアルが行われている3000形については、手を入れる箇所を絞っているようで、小田急の方針が変化しつつあることをうかがわせます。

方針転換の背景には、徹底的なリニューアルを行うことの課題が隠れていると推測されます。
分かりやすいところでは、工期が長くなることで、長期間に渡って営業運転から離脱する必要がありました。
10両固定編成ともなると、1年近く運用から外れることになるため、効率が悪い面は否めませんでした。

工期が長くなることで、他の車両のリニューアルを開始する時期が遅くなる弊害もあり、1000形のリニューアルが開始されたのは、製造から25年以上も経過してからとなっています。
また、リニューアル後も長く走れる車両ばかりではなく、実際に10年程度で廃車されてしまうケースもあります。

新車のような仕上がりではあるものの、構造部分等は新造当時のままであり、どうしても見劣りする部分はありました。
コストの面では新車の製造とそこまで違いがないともいわれていることから、簡易的なリニューアルで延命をしつつ、新車に置き換える方針へと変化するのは自然の成り行きなのかもしれません。

徹底的なリニューアルを行うことは悪なのか

課題ばかりをあげてきましたが、徹底的にリニューアルをすることにプラスの面はないのでしょうか。
もちろんそんなことはないので、考えられることをあげてみたいと思います。

まずはコストの面ですが、交換する機器の購入等で外部に出ていくお金はありますが、人件費という面では系列会社間での負担となります。
系列会社での雇用を生むという面もあり、徹底的にリニューアルをすることで技術も蓄積するでしょうから、コストだけでは比較できないメリットはあると思われます。
ロマンスカーのように、車両メーカーでリニューアルをする場合には当てはまりませんが、大きなプラス面といえそうです。

車両メーカーの生産能力を超えてしまう場合において、サービスの向上を後押しできることもメリットといえます。
小田急の車両ばかりをメーカーは製造しているわけではないため、希望どおりに発注ができない場合もあるでしょうから、自社での対応による自由度の高さがプラスに働くこともあるでしょう。
計画の変更や中止もしやすいと考えられ、3000形のように簡易的な仕上げに方針転換することもできます。

もう一つは感情の面で、働く方々や利用者の中には、少なからず車両に対する愛着がある方がいます。マイカーを大切に乗るのと同じように、手を入れつつ長く車両を使い続けるというのは、費用対効果だけでは論ずることができない面もあります。
経営的な観点では、費用対効果を重視せざるを得ませんが、数字だけでは分からない効果というものも、忘れてはいけないのかもしれませんね。

おわりに

2000形のように、リニューアル自体を行わずに引退するケースが今後は増えてきそうです。
更新対象ではない車両があるからこそ、徹底的なリニューアルをしてきた可能性もありますが、今後はどのような方向性が定着していくのでしょうか。