完全引退まで1年を切り、少しずつ小田急から50000形(VSE)が消える日のことを想像するようになってきました。
当たり前に走っていた車両が早期に引退となることは、小田急ファンとして寂しいというのが、やはり正直な気持ちです。

最近になってVSEに乗る機会があり、車両そのものの良さを再認識させられましたが、それは乗ってこそ分かるものでもありました。
後世にも残していきたい、乗車体験の価値を考えてみたいと思います。

乗ってこそ分かるVSEの価値

小田急沿線に居住しながらも、起点や終点からは離れている私にとって、VSEはあまり乗ることがない車両でした。
ロマンスカーの利用は短距離が中心であり、わざわざ乗る機会を設ける以外の方法がなかったためです。
VSEは通過するのを眺める車両という位置付けでしたが、外観のインパクトが強かったため、それだけでも満足感がありました。

定期運行からの引退後、VSEを使用した様々な臨時列車が走っていますが、通勤型車両への興味も強い私は、最近までそちらに時間とお金を使う状況でした。
通勤型車両の動きが少し落ち着いてきた頃、VSEの貸切列車に関するお誘いがあり、幸いにもゆっくり乗る機会に恵まれました。
貸切列車だからこそ乗車時間は長く、ゆったりと時間が流れることもあってか、私はVSEの良さを再認識させられることとなります。

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暖色系でまとめられた車内は心地良く、優しさに包まれたような安心感がありました。
いれたてのコーヒーでもあれば最高でしたが、それは既に叶わない願いとなっています。

窓からの景色を楽しめるようにと、VSEの座席が窓側に少し傾いているのは有名な話ですが、デザインを担当した岡部憲明氏の思いが表れています。
建築家である岡部氏だからこそ、車内、沿線での見え方、多方面から考えられた車両が仕上がったのだと思います。
椅子に座ってぼんやりと外を眺めていると、様々なことを考えて設計されたことを再認識させられました。

後世に残したい乗車体験

新宿から箱根へ、ロマンスカーのスタートは観光特急でしたが、時代や環境の変化によって観光列車主体に戻すことは不可能といえます。
マイカーが普及し、レジャーの多様化も進んだ現代において、移動手段の中心になるのは簡単ではありません。

そんな時代だからこそ、観光特急の立ち位置から見たロマンスカーには、乗ること自体への価値が必要といえます。
目的地への移動手段としてだけではなく、目的地に向かう途中にある目的地、そうなる必要があるように思います。
VSEにはその要素が強くありましたが、利用者目線では感じにくい技術面にも力を入れたことが、結果的に寿命を縮めてしまいました。

日常利用以外の目的でロマンスカーに乗る価値、それこそが後世に残したい乗車体験でした。
以前にも書いたとおり、通常の料金でそれを実現するのは難しく、今までとは違った手法が必要になるのでしょうが、是非実現してほしいものです。

今までとは違う惜しまれ方をしているようにも感じるVSEですが、それには乗務員の方々の強い思いもあるように感じています。
利用者や子供への対応を見ていると、それを発揮できる場が減ってしまうのは、やはりもったいないと感じました。
乗務員と乗客が触れ合える列車、そんなロマンスカーも大切にしたいものです。

おわりに

VSEが完全に引退する日までに、私はあと何回乗ることができるのでしょうか。
乗ることの楽しさを引き継いだロマンスカーへと繋がるのか、いつか登場するであろう新型車両にも期待するとしましょう。