前面に展望席がない車両が増加し、昔とはイメージが変化しつつある小田急のロマンスカー。
箱根への観光輸送を目的として誕生したロマンスカーは、やがて日常の輸送も担うようになりました。

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50000形(VSE)が完全に引退する日が迫る中、気になるのは次世代を担うロマンスカーです。
残る車両たちが引退時期を迎える頃に登場するロマンスカーは、どのような車両となるのでしょうか。

2タイプに分かれるロマンスカー

運転室が2階にあり、乗客は展望席のパノラマを楽しむことができる車両、それがかつてのロマンスカーのイメージでした。
小田急で初めて前面展望席を採用したのは、1963年にデビューした3100形(NSE)という車両で、観光輸送を主体としていました。

観光での利用を意識した車両は長く続き、NSEよりも前に登場した車両の時代から、20000形(RSE)までが同様のタイプでした。
日本の経済が飛躍的に拡大を続けていた頃のことで、バブルが崩壊した後からは流れが変わることになります。

ロマンスカーの転換点となったのは、1996年にデビューした30000形(EXE)で、過去に登場した車両とは全く異なる、日常利用に重きを置いた設計となりました。
しかし、やや設計が極端だったことによる反省か、続くVSEは観光への特化に回帰し、60000形(MSE)では様々な運用に対応、70000形(GSE)では観光を重視しつつ日常利用にも使いやすい設計となっています。

大きく分ければ2タイプですが、MSEやGSEはやや混ざったような面があり、境界が曖昧になっているようにも感じられます。
VSEの引退が惜しまれる背景には、近年のそのような事情もあると考えられ、色々な顔を持つロマンスカーならではの悩みといえそうです。

次世代のロマンスカーを考える

MSEやGSEの流れを見ていると、観光と日常のどちらかに寄せる難しさが感じられます。
観光で利用する際には、VSEのような夢が沢山詰まった車両は旅の楽しさを盛り上げ、仕事の後にはEXEのような落ち着いた車両に乗りたくもなります。
この二つの需要を兼ねるのは、思っている以上に難しいのかもしれません。

ラッシュ時には重宝する10両についても、時間帯によっては輸送力が過剰になるという課題があります。
日中は4両が休んでいることも多く、稼働率の面ではもったいない部分もありそうです。

そのような状況の中で、過去に目を向けて考えた場合、気になる存在の車両があります。
御殿場線に乗り入れるため、短い5両に短縮された3000形(SE)がその車両で、多客時には2編成を繋いだ10両で運転されました。
EXEやMSEのように、4両と6両を繋ぐのと同じと思うかもしれませんが、同じタイプの車両が重連となっていた点が異なり、全編成を同じように使うことが可能でした。

今後のテーマとなりそうなのは柔軟性で、実際に要素の一つとして考えられていそうなことは、公の場で耳にする機会もありました。
輸送力の増減に効率よく対応し、観光と日常のどちらでも利用しやすい車両、そんなところに落ち着くのでしょうか。

前面展望席が採用されるかは分かりませんが、観光で利用する際のわくわく感を演出する要素は、先頭車に入ると考えられます。
輸送力を最大化する10両編成は外せないため、両端に展望車等を配置しつつ、EXEやMSEのように分割併合が可能なスタイルとすれば、どちらにも対応しやすくなります。

MSEとGSEを合わせたような車両が、今後の最適解のようにも思われますが、実際には課題もあります。
それは、4両や6両で走る場合に、眺望がよくない先頭車となってしまう向きがあることで、観光輸送の面ではマイナス要素でしょう。
空いている時間帯に4両が余るのも変わらず、これも中途半端な結果を招きそうです。

そこで考えたのが、4両に3両を2本繋いだスタイルで、両端に位置する4両と3両には展望席を設置、中間に入る3両は両端に貫通型の先頭車を配置するというものです。
この編成形態であれば、最大で10両を組みつつ、観光に特化する際は中間の3両を抜いた7両になり、余った中間の3両同士を繋げば、6両で日常利用向けに走らせられます。
4両と6両のスタイルでは、今と同じように分割併合も可能であり、柔軟性を備えつつ、稼働効率も高められるのではないでしょうか。

おわりに

小田急がここまで振り切った車両を造るのかといえば、可能性はそこまで高くないかもしれません。
今までのような4両と6両や、GSEの延長線上となる可能性も高いですが、柔軟性という面ではどうしても中途半端になります。

顕在化している課題をどのように解決していくのか、次世代のロマンスカーにはどのような回答が待っているのでしょうか。