多摩線の延伸に合わせて開業し、駅の先には喜多見検車区唐木田出張所が設置されている唐木田駅。
小田急としては69番目に設置された駅となり、多摩線の終着駅として行先表示でもおなじみの存在となりました。

そんな唐木田駅ですが、ステンドグラスを使用した洒落た駅舎が印象的です。
ステンドグラスには菖蒲が描かれていますが、なぜそのようなデザインとなっているのでしょうか。

菖蒲が描かれたステンドグラス

1990年3月27日に開業した唐木田駅は、終着駅ながら後の延伸を考慮した配線となっており、ホームの先まで少しだけ本線が続いています。
将来的な延伸を考慮したことや、車庫が併設されているためか頭端式ホームとはなっておらず、途中駅に見られるような橋上駅舎が採用されました。

唐木田の駅舎は、バブル景気の最中という世相を反映してか、全体的に豪華な造りに見えますが、ふと天井を見上げるとお洒落なステンドグラスが目に入ります。
駅舎自体は山小屋の屋根を思わせるようなデザインで、一目で唐木田駅と分かるものとなりました。

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ステンドグラスは天井に設けられたドーム上の窓にあり、見上げると目に入ってきます。
正面側とホーム側の2種類があり、この写真は正面側のものとなります。

デザインは正面側とホーム側で異なりますが、どちらにも菖蒲が描かれているという共通点があります。
昼と夜で異なる見え方になるのも印象的で、唐木田駅のシンボルになっているといえるでしょう。

唐木田に存在した菖蒲園

駅舎のステンドグラスに描かれた菖蒲ですが、このデザインが採用されたのには理由があります。
唐木田にはかつて個人の方が運営する菖蒲園があり、唐木田といえば菖蒲だったことに由来したものなのです。

個人運営の菖蒲園とはいえ、50種類を超える品種を揃えるような大規模なもので、初夏には沢山の花が咲き乱れていたようです。
そんな素敵な菖蒲園に訪れた過酷な運命が、多摩ニュータウンの開発による影響でした。

区画整理を行うため、住民の方々は関連する造成工事に伴う集団移転を余儀なくされます。
菖蒲園も対象範囲に含まれ、このままでは埋め立てられてしまう状況であり、沢山の菖蒲が消えてしまう運命にありました。

そのような状況下、各所から菖蒲を残せないかという声があがり、多摩市内にある中沢池公園への移植が実現することとなります。
移植作業は地域の方々も協力して進められ、沢山の菖蒲は無事に残ることとなりました。

おわりに

多摩ニュータウンの開発により、唐木田にあった菖蒲園はなくなりましたが、菖蒲自体は移植によって残され、今日まで多くの花を咲かせています。
駅舎のステンドグラスに描かれた菖蒲には、大規模な開発によって消えてしまった風景を少しでも残そうという、そんな意思が込められているのかもしれませんね。