現在のところ小田急で最も多く製造された車両であり、全346両が在籍する3000形。
4000形以降の形式に比べるとバリエーションも豊富で、リニューアルによりさらに増える状況となっています。

そんな3000形ですが、まだ増備が行われていた頃には、床下全面に防音カバーを装着した編成が存在しました。
3次車以降の全ての編成に装着する予定といった噂もありましたが、実際のところはどうだったのでしょうか。

異様な姿で登場した3263F

初期車を中心として、3000形には多くのバリエーションが生まれました。
その背景としては、車両の標準化が進められる過渡期だったことが関係していますが、2次車以降は小田急らしさがさらに薄まってしまい、当時は色々と言われていたことを思い出します。

3次車以降はさらに標準化の傾向が強くなりますが、そんな中で1編成だけの異端車が登場しました。
6両編成の第13編成がそれにあたり、3263Fという編成はあまりにも有名な存在となります。

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見れば分かるとおり、通常は前面にしかないスカートを側面にも取り付け、車両の床下全体を覆った姿となっています。
このスカートは排障器としての役割ではなく、床下から発生する騒音を低減するためのもので、防音カバーとしての装着でした。

3263Fは他の編成と同じように営業運転も行いましたが、試験車としての役割を兼ねていたため、多くの試運転が実施され、実際に騒音の低減効果もあったようです。
しかし、保守の面で難があったことや、全密閉式のモーターを採用する方向になったためか、最終的には撤去されてしまい、他の編成に波及することはありませんでした。
当時の噂レベルですが、この防音カバーを他の編成にも取り付け、騒音問題の解決を図っていく方針と耳にすることが多く、その後の展開に多くの方が関心を持っていたように思います。

全編成に装着する可能性はあったのか

全ての編成に防音カバーを装着する方針については、実際にあったのではないかと考えています。
より正確に表現すると、全編成に装着することを考慮して、取り付けられるようにしていたというところでしょうか。

3000形の防音カバーについては、そもそも3263Fの登場よりも前に試験が行われています。
1次車の3254Fにおいて、中間車の一部にスカートを取り付けて試験をした経緯があり、3263Fはそれを発展させた編成単位での試験車だったことになります。
また、当時の小田急は高架複々線化に関連する騒音の訴訟を抱えており、車両から発する音を少なくする必要に迫られていました。

そのような経緯を踏まえれば、試験の結果が良好な場合において、本採用する計画だったとしても違和感はなく、3次車以降の全編成に波及する可能性はあったものと考えられます。
3000形は3次車からスカートの形状を変更し、側面の防音カバーと一体化させられるようになっていますが、3263F以外もこのスカートの採用を継続しており、装着することを考慮していた可能性があるといえるでしょう。

試験の過程では、3265Fの電動車にだけ防音カバーを装着した実績があり、取り付け自体が可能だったことは間違いありません。
後に3263Fも電動車だけの装着に変更しますが、最終的に防音カバーは撤去されてしまい、結果としては試験採用のみとなってしまいました。

おわりに

あまりにもインパクトが大きく、鉄道ファンの注目を浴びることになった3263F。
防音カバーが本採用されることはありませんでしたが、他の技術を駆使することで車両が発する騒音は激減し、小田急は日本でも有数の静かな鉄道に進化しています。