江ノ電の車両では最多勢力で、2両編成が6本在籍している1000形。
仕様変更を行いつつ増備された経緯があり、車体の細部や搭載する機器に編成ごとの差異があります。

そんな1000形の中には、今も吊り掛け駆動方式の車両が残っており、全国的にも珍しい存在となりました。
1983年まで吊り掛け駆動方式で登場した1000形ですが、なぜ採用を続けたのでしょうか。

完全新造車として最後の吊り掛け駆動車

1970年代の江ノ電では、旧型車等を改造した車両が主力として活躍しており、老朽化や質の低下が課題となっていました。
そこで、古い車両の置き換えを目的として、新造車の導入を行うこととなり、その結果として登場したのが現在も活躍する1000形です。

1000形は2両を1編成とする連接車で、急曲線等の乗り心地を重視した設計となっています。
従来の車両とは異なり、洗練されたスタイルが特徴となっており、観光地を走るのにふさわしい大きな窓が採用されました。

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1000形は最終的に6編成が増備されますが、3次車となる第4編成までは吊り掛け駆動方式が採用されています。
3次車となる1201Fは、1983年にデビューしていますが、VVVFインバーター制御が実用化されていくような時期において、吊り掛け駆動方式の車両が造られていたのです。

第5編成となる1501Fより、1000形はカルダン駆動方式を採用したため、1201Fは江ノ電で最後に吊り掛け駆動方式を採用した車両となりました。
結果的には、狭軌を採用する路線において、1201Fは日本で最後に吊り掛け駆動方式を採用した電車にもなっています。
現在も足回りは変更されていないため、全国的に吊り掛け駆動車が絶滅危惧種となる中、現役で活躍する貴重な存在となりました。

吊り掛け駆動方式の採用を続けた理由

カルダン方式が当たり前となっている時代において、1000形はなぜ吊り掛け駆動方式で登場したのでしょうか。
旧型車から足回りを流用し、近代的な車体に吊り掛け駆動方式という車両は、この時期においても造られていますが、1000形は完全な新造車という点で異色の存在でした。

1000形が面白いのは、そのような足回りを採用しながらも、制動方式は電気指令式ブレーキとなっていることです。
このような点からも、何らかの事情で吊り掛け駆動車としつつも、他は近代的な車両とされたことがうかがえます。

江ノ電には特徴的な風景が多くありますが、そのうちの一つが点在する急カーブです。
全ての車両が連接車という現状にも繋がりますが、この急カーブこそが吊り掛け駆動方式の採用に繋がっています。

急カーブが多い江ノ電においては、軌道への悪影響をできる限り抑えるべく、台車の固定軸距を短くすることが求められました。
固定軸距が長い場合、線路が歪みやすいといった影響があるため、保線作業の手間が多くなってしまうのです。

1000形の固定軸距を短くすることは、動力台車の外側にモーターを配置することで実現していますが、路面電車等で実績が豊富なのは吊り掛け駆動方式でした。
軌道への悪影響を抑えつつ、最新の技術も採用した結果、1000形という面白い車両が生まれたことになります。
その後、1000形の使用実績等を踏まえ、カルダン駆動方式を採用できる目途が立ったことから、1501Fより固定軸距を少し拡大し、江ノ電も高性能車の時代に入っていきました。

おわりに

江ノ電は2025年度以降に新型車両の導入を予定しており、吊り掛け駆動方式の1000形については、今後の動向がやや気になる存在です。
一気に置き換えることは難しいと考えられますが、そもそも対象になっているのかも含め、どのような未来が待っているのでしょうか。