大手私鉄同士における異例の車両譲渡となり、西武を走ることになった小田急の車両。
形式は8000形から8000系に変更され、比較的原形を保った姿で活躍を続けることとなりました。

西武には東急からも譲渡が予定されているため、過去に例がないほどの大量譲渡事例になるものと思われますが、大手同士の車両譲渡は鉄道業界の常識を変えていくように感じています。

営業運転を開始したサステナ車両

譲渡後に必要な改造を行い、試運転等を行っていた8000系は、2025年5月31日より営業運転を開始しました。
他の車両とは繋げられないため、西武では専ら6両編成単独で使用されることとなります。

20250628_02

国分寺線用とされている8000系ですが、早速拝島線内でも運用する姿が見られました。
今後どの程度の走行機会があるのかは不明ですが、臨時列車等も含めて活躍する範囲はかなり広くなりそうです。

サステナ車両と名付けられた譲渡車両ですが、今後は東急から9000系と9020系も入線予定です。
こちらは8000系よりも大がかりな改造となるようで、8000系よりも長く使うことが想定されます。
8000系は比較的短期の使用となりそうなものの、最低でも10年程度は走るのでしょう。

鉄道業界の常識が変わる可能性

大手私鉄である西武が中古の車両を導入するという展開は、多くの鉄道ファンを驚かせることとなりました。
JR各社を含め、地方私鉄等以外が中古の車両を導入することは珍しく、これだけまとまった両数であることを考慮すれば、あまりにも異例の選択となります。

サステナ車両の導入は、コストが抑えられるメリットもありますが、SDGs等への貢献も強く打ち出されています。
建前のように感じてしまいがちな部分ですが、今回導入される車両がまだ走れる状態であることを踏まえれば、手を加えて活用していくことは、少なくとも悪い取り組みではないでしょう。

今回の車両譲渡において、西武は鉄道業界の常識を破ったといえますが、この動きは今後広がる可能性があるように感じています。
最新の動向でも、JR九州が東京臨海高速鉄道から70-000形を受け入れると発表しており、早速似たような事例が出てきました。
西武と似ているのは、比較的用途が限られる車両として導入するという点で、合理的な判断がされたように思います。

多くの鉄道会社で行われていたこととして、本線格の路線を走っていた車両が、短編成化されて支線等に移るというケースがありました。
その際には先頭車化等が行われたりもしましたが、ステンレスやアルミの車体が中心になったことで、こういった改造はしにくくなっているように思います。
改造したとしても、元々が中間車であることが分かるような姿であることも多く、昔のような一見すると分からないような加工は難しいようです。

先頭車化等が難しいとなれば、中間車だけを廃車にして短編成化するか、支線等のために新車を入れる必要がありますが、どちらも合理的とはいえない面があります。
メンテナンスのしにくさという面で課題を生むものの、他社で不要となった車両を引き取ることは、用途が限られる場合の一つの選択肢といえるのではないでしょうか。

加工が難しくなった一方で、車両の標準化が進んだことで、各社における独自色は昔よりも薄れつつあります。
戦後等には、大手同士の車両譲渡がやや多かった時期がありますが、その頃も比較的車両は標準化されていました。
現代とは異なる理由による標準化ですが、車両の融通がしやすいというメリットはありそうです。

少子高齢化の進行により、労働人口は減少しつつあり、資源価格も高騰が続いています。
以前のように新車ばかりを導入していくことは、したくてもできない時代がくるのかもしれません。
そういった意味においては、西武が事例を創出した意味はあまりにも大きく、中古の車両を導入するというハードルは、以前よりも下がったのではないでしょうか。

おわりに

人によって思うことは異なり、今回の譲渡事例は肯定的な意見ばかりではありません。
しかし、時代の転換期ともいえる現代において、西武が辿り着いた選択肢のインパクトは強烈で、鉄道業界の常識を変えていく可能性もあるように思います。